吉田:現在、多くの学校で導入されているStudyaid D.B.は1996年の発行になりますから、もう30年近く前になりますよね。
中井:発売当時は、まだ学校にPCがそこまで普及しておらず、営業が重いPCを持参してまわったそうです。
吉田:Windows98が出る前ですから、かなり先駆的でしたよね。
中井:ええ。これまでになかったものなので、こんなに簡単にプリントがつくれるようになるのかと、先生方も驚かれたようです。
吉田:細かいことなのですが、生徒たちが違和感なく問題に取り組めるようにと、数式のフォントも教科書と同じものを採用しています。
杉原:そんなところにまで、こだわりがあるのですね。
吉田:特に数式は、教科書とフォントが違うとそこが気になって問題に集中できなくなる子もいるので、読みやすさ、見やすさには、かなりこだわっていますね。
中井:先生方からのさまざまなご要望をお伺いし、機能をブラッシュアップしてきた歴史もありますね。Studyaid D.B.自体の商品力もありますが、そういった一つ一つの丁寧な対応が信頼を得て、多くの学校にご採用されているのだと思いますね。
杉原:2021年にエスビューアが発売されましたね。
中井:ええ、学校現場で導入される端末がWindows、iPad、Chromebookと多くなり、さらに学習者用に特化した機能への要望も高まっていました。
吉田:営業とは慎重に話し合いを重ね、中学校の新課程が開始される2021年の発売を目指しました。プロジェクトチーム全員の想いが詰まったビューアが完成しました。
杉原:開発の段階では私たち編集からも、こんな機能を付けてほしいとか、こういった使い方を可能にしてほしいなど、さまざまな要望を言わせてもらいました。
吉田:その要望が各教科で違うんです。それをそのまま全て搭載すると、機能が煩雑になり使いにくいものになってしまう。ですから基本機能は共通化していますが、教科ごとにデータをつくり分けています。数学で使う時には数学で使う機能だけ、英語で使う時には英語で使う機能だけが表示されるようにしました。
杉原:最初に使った時、英語の機能は充実しているけれど、他の教科でもこの仕様で使い勝手がいいのかな?とも思いましたが、各教科の要望に応えていたのですね。
吉田:それぞれの教科専用の仕様に自然に切り替わるといったイメージですかね。各教科でベストな使い勝手と機能を目指せたのも、自社開発だからこそです。
中井:2021年に発売したエスビューアは、2022年には先生と生徒で連携が取れるように機能をアップデートしていますが、元々予定されていたことなのですか?
吉田:実はこの連携機能は、もう少し先に搭載しようと予定していました。しかしコロナ禍になって、学校が困っている状況を営業から知り、何かできることはないかなと考えたのです。休校もあり、先生と生徒のコミュニケーションがとりにくい状況になってしまっている。それならこの連携機能が少しでも役に立つかもしれないと、搭載を前倒しすることに決めました。
中井:実際には、搭載できた頃には学校も通常の状態に戻りつつありましたが、スピードを持って対応できたことは、先生方からもとても評価されています。
吉田:それはありがたいです。また何かあっても、生徒さんとつながれるという安心感になれば、嬉しいですね。
中井:教科書にQRコードを付けられるようになりましたが、編集ではどのような取り組みをしていますか?
杉原:これまでの書籍の編集とは全く異なる発想というか工夫も必要になってきます。ICT部門の方にもどうしたら良いのか、いろいろ相談して進めています。
吉田:世の中に出ているシステムも含めて、我々が持っている知識や情報から、「こんなことができるけど教材に活かせない?」と提案したり、編集から「こんなことがしたいけれどできない?」と相談されたり、いろいろですね。
杉原:英語に関しては、デジタルコンテンツによってリスニングや発音練習の幅が広がったのは、とても大きなことです。どうすれば生徒が興味を持って使ってくれるのか、本当に試行錯誤しながら進めています。
中井:英語のコンテンツに、自分の発音を判定してくれる音読練習用の「発音マスター」がありますが、これもその一つということですね。
杉原:はい、そうです。音声をちゃんと認識してくれるか、判定時に示されるアドバイスは的確か、発音記号は正しいかなど、さまざまな面から何度も検証しながら進めています。場合によっては、お手本の音声を録り直すこともありました。教材ですので、完成度には徹底してこだわっていますね。
吉田:私も編集者とたくさん話していますが、みなさんどんどんデジタルの知識が増えていくのがわかります。
杉原:避けては通れない道ですからね。
中井:学校の先生に、「数研出版のICT部門の方から直接電話があったよ」と言われたことがありますが、吉田さんは先生によく電話をしますか?
吉田:はい、しますね。頻繁にご意見を挙げていただける先生について、営業担当者から直接話を伺っていて、先日、その方から質問のメールが届いたのです。ですから、すぐに電話をしてお話しさせていただきました。
杉原:先生は驚かれていませんでした?
吉田:ええ、驚いていました。でも、ご自身のご意見が営業を通じて私たちICT部門の者に伝わっていることをお話すると、とても歓迎してくれました。
杉原:そうなんですね。
吉田:先生の疑問に少しでも早く回答したいという気持ちがありますし、お話しすることでより便利な使い方を伝えられることもあります。また、新たな課題を見つけられることもありますから。
杉原:ICTの仕事というと、PCに向かって作業をしているイメージがありますが、そうでもないのですか?
吉田:はい。ICT部門の社員から先生方に連絡をして、直接学校に訪問することもあります。私も、結構しています。
中井:先生方もICT部門の担当者が直接話してくれるのは、安心できますよね。
吉田:Studyaid D.B.がこれだけ受け入れられているのも、一人一人の方に対する地道な活動があったからだと聞いています。一人一人のユーザーの方に満足いただけないと、システムは広がらないということを知っていますから、そこは本当に大切にしていますね。
中井:これからますます学校にデジタルが広がっていくのは間違いないと思いますが、紙の書籍の在り方はどうなっていくと思いますか?
杉原:教材を企画する時には、その教材の目的をはっきりさせた上で書籍に落とし込みます。今の時点では、そこから展開する仕様の一つにデジタルがあると捉えています。軸は書籍に置いていますが、デジタルの活用で教材の可能性も広がるので、それをどう使うかはとても重要な課題だと思っています。
吉田:デジタルは便利ですが、だからといって何でもデジタルで解決できるわけではありません。ある課題や要望に対してデジタルありきで考えるのではなく、まずその根本を見ることは心がけていますね。
中井:デジタルを使うことで、書籍の良さがさらにわかるようになったのではと考えています。例えば、情報を俯瞰できて全体像が掴めることや、自由に書き込めることも書籍の大きなメリットだと思います。これからは書籍とデジタル、それらの特長をうまく掛け合わせて、より最適な学習をサポートすることが大事ですね。